Keio Center for Strategy

11 August 2024

【動画公開】
KCS Talk:「NATO事務総長が語る同盟の本質」

2024811日、当センターは鶴岡路人副センター長によるイェンス・ストルテンベルグNATO事務総長へのインタビュー動画を当センターの公式YouTubeチャンネルにて公開しました。本ページ掲載の日本語全訳も併せて、ぜひご覧ください。 

【出演者】

NATO事務総長 イェンス・ストルテンベルグ(任期2024930日まで)

KCS副センター長 鶴岡路人

撮影日:2023年2月1日

 

【日本語全訳】

鶴岡(KCS副センター長):慶應義塾大学へようこそ。お越しいただき、感謝いたします。慶應義塾大学では戦略構想センターというシンクタンクを創設し、国際問題、戦略問題への取り組みを強化しようとしています。その観点で今日はいくつかの質問をしたいと思います。事務総長のリーダーシップを極めて高く評価しています。トランプ時代の不確実性からNATOを救い、現在はロシアへの対処において同盟の結束を保っています。そこで最初にお聞きしたいのは、同盟を結束させるための秘訣です。NATOにおいて全ての加盟国をまとめてコンセンサスをつくるために、最も重要なものは何でしょうか?それぞれの加盟国は、異なる考え、地理的条件、利益を持っているわけですが。

ストルテンベルグ(NATO事務総長):最も重要なことは、我々を分断させるものではなく、結束させるものに焦点を当てることです。NATOに関していえば、我々は、共に行動するときにより強くなることが全ての基礎です。NATOの大前提は、1カ国への攻撃を全てへの攻撃と見なすことです。「一人はみんなのために、みんなは一人のために」です。それぞれの加盟国の間には当然さまざまな相違があります。以前もそうでしたし、現在もそうです。NATO加盟国は大西洋の両岸にあり、歴史も地理的条件も、政権を担っている政党も違います。1950年代のスエズ危機から(2003年の)イラク戦争まで、[分裂の]実例はたくさんあります。しかし、NATOは常に勝利してきました。それは、共に行動した方がより強く、より安全であると全ての加盟国が認識してきたからです。共に行動することが各国の国家安全保障上の利益なわけです。より危険でより予測不能な今日の世界では、さらにそうで、共に行動することがより重要になっています。それこそ、NATOがまさに日々おこなっていることです。私自身、そのことに集中してきましたし、それが同盟を結束させる助けになってきました。

鶴岡:今日のNATOは歴史上最も結束しているといえるでしょうか?

ストルテンベルグ:全ての加盟国は、ウクライナにおける残忍な戦争の結果、NATOの重要性を今まで以上に認識することになりました。強力なNATOが重要であることを戦争が示したのです。ウクライナはNATO加盟国ではありませんが、極めて重要なことは、ウクライナで起きているようなことがNATO加盟国で起きないようにすることです。それこそが、NATOを必要とする理由です。過去数年でバルト諸国やポーランドといった東方の同盟諸国でNATOの軍事的プレゼンスを強化してきたのは、NATOの即応性や全ての加盟国を防衛する能力について、ロシアが誤った計算をしてしまう余地をなくすためです。これが抑止です。紛争を挑発するのではなく、紛争を防ぎ、平和を維持することが目的です。ウクライナにおける戦争はこのこと[抑止]の重要性を明確に示し、それゆえ、NATOはより結束することになったのです。

鶴岡:ロシアを抑止し、NATO領土を守るという観点で非常に成功してきたわけですね。

ストルテンベルグ:そうです。1949年以降、75年近くにわたって、NATOは歴史上最も成功した同盟であったのです。まずは冷戦期に、そして現在は考えられるあらゆる敵対国に対して、信頼に足る抑止を常に提供してきたからです。ウクライナでの戦争に関しては、共に行動することによって、それがNATO諸国の領土に拡大するのを防いでいるわけです。

鶴岡:事務総長はウクライナはより多くの武器を必要としていると指摘されています。ただ、これまでの経緯を見ると、NATO加盟国によるウクライナへの武器供与の拡大は、漸進的であり迅速ではなかったといえる部分があります。NATO加盟国はより迅速に行動すべきだったと考えますか?もしそうだとすれば、各国はなぜそれができなかったのでしょうか?

ストルテンベルグ:NATO加盟国はウクライナに対して、前例のない大規模な支援をしています。プーチン大統領は、NATOを分裂させられると誤解し、ウクライナを支援するNATOのコミットメントを完全に過小評価しました。ロシアへの経済制裁とウクライナへの軍事支援の両方に関してです。現在の武器支援は、戦争勃発当初の支援と異なるのはそのとおりです。NATOによるウクライナ支援は、戦争自体が変化するとともに変化してきました。当初は、例えば、軽量で使用の容易なジャヴェリンなどの対戦車兵器などが極めて重要だったのです。米国や英国をはじめとするNATO加盟国が支援しました。その後、榴弾砲などの火力がより重要になり、さらに、より先進的な防空システムの重要性が高まりました。現在の焦点は、より高度な装甲車両、つまり歩兵戦闘車や主力戦車に移っています。いかなる武器を供与するかについては、NATO加盟国間、そしてウクライナとの間で日々協議がおこなわれています。これらは重要です。同時に、新たな兵器の問題だけではないことを認識しなければなりません。我々がこれまでに供与した武器が適切に使われ続けることをいかに確保するのかも重要です。そのためには、大量の弾薬の供給や整備・修理のための部品などが不可欠です。新たに供与する武器について議論することも重要ですが、これまでに供与された武器を活用し続けられるようにすることは、同程度に重要なのです。

鶴岡:プーチン大統領はNATOの強さを過小評価したと指摘されましたが、彼はなぜ過小評価したのでしょうか。彼はNATOを十分には知らなかった、NATOをより勉強すべきだったのか。なぜだと思いますか?

ストルテンベルグ:それを推測するには慎重になる必要がありますが、まず、彼はウクライナ人の強さ、勇気、ウクライナ軍のコミットメントを過小評価し、NATOの結束、加盟国のウクライナ支援への意思を過小評価したわけです。ここまでは事実です。ロシアの計画は、首都キーウ、そしてウクライナを数日で制圧するものだったのですが、すでに1年も戦争しているわけです。重要なのは、権威主義体制下では、「真実」が最初の犠牲者になることです。指導者の決定を批判したり、疑問を提起したりするはずの人々は、それができる立場にはいないことが多いのです。民主主義、開放的で自由な社会の利点の一つは、我々は間違いを犯すとしても、それを正すことができることです。なぜなら、我々は開放的で自由な議論ができるからです。それこそ、ロシアや他の権威主義体制が有していないものです。

鶴岡:研究やシンクタンクの世界と政策・政治の世界の関係について聞かせてください。政策や政治指導者の観点で、シンクタンクや学術界に最も期待することは何でしょうか?

ストルテンベルグ:民主主義で開放的で自由な社会において重要なものは、自由で独立した報道と同時に、自由で独立した学術界の存在です。慶應大学や他の機関のように、自由で独立した学術機関を有することが重要で、それは、我々が暮らす世界に関してより正直な理解をする助けになるとともに、科学を前進させ、我々の社会や政策コミュニティや政治家がおこなう決定についての開かれた議論を可能にするのです。したがって、学術機関にとっての最も重要なことは、「真実」を追求し続け、自由で開かれたマインドと議論を維持することです。

鶴岡:ありがとうございます。最後に、学生に対するメッセージをお願いします。特に、なぜ彼らは国際関係、国際安全保障、平和と安全保障の問題などを学ばなければならないのでしょうか?

ストルテンベルグ:国際関係は我々みんなの日々の生活にいままで以上に関係するようになっています。なぜなら、グローバル経済の時代に生きていますし、安全保障もグローバルになりました。したがって、大きな国際問題は、世界中を駆け回るような、いわゆるグローバル・コミュニティの人々のみに重要なのではありません。ローカルな社会を含めて、全ての人々にとって重要なのです。平和と繁栄の問題で世界中がつながっているのです。そのために国際政治を理解することは重要で、学生も国際関係についての学術的知見も、将来において正しい決定をするために必要なのです。

鶴岡:本日はお越しいただき、ありがとうございました。

ストルテンベルグ:お招きありがとうございました。

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